令和の痛み治療【運動器カテーテル治療】

カテーテル治療とは何ですか?

カテーテル治療とは細い管を手首や足の付け根から挿入して行う治療で、全身麻酔が不要で大きな侵襲をともなうことなく小さな傷で治療できる特徴があります。心臓や脳の血管治療が有名ですが、他にもがん治療などで広く応用されています。カテーテル治療には大きく分けて、形成術と塞栓術があります。動脈硬化などで狭くなった、あるいは閉塞した血管を風船で拡げたり、血の塊を吸引して取り除くなどにより血液の通り道を確保するのが形成術。がんの栄養血管を薬やコイルでつぶして死滅させたり、不要な交通や破裂する危険のある血管を詰めて閉塞させるのが塞栓術です。

運動器カテーテル治療とは何ですか?

運動器に対するカテーテル治療は、末梢動脈硬化症により血液の通りが悪くなった手足の血管などに対して行われる末梢動脈形成術が挙げられますが、これらはPTA,PPI,下肢動脈EVTなどと呼ばれます。運動器カテーテル治療とは、一般的には整形外科の対象疾患である肩・膝・腰・肘などの慢性痛に対して行われる経カテーテル動脈塞栓術(Transcatheter Arterial Micro-Embolization)を指します。がん塞栓術の発想から生まれましたが、用いられる薬(塞栓物質)は安全な一時塞栓物質です。

運動器カテーテル治療のメカニズムを教えてください。

痛みを長引かせている原因として、病的新生血管の増殖が注目されています。
大きく分けて3つの機序があります。
①痛み物質を血管外に漏らしてしまう(病的新生血管は構造がいびつであるため)
②正常な血管から血液を盗み取ってしまう(盗血現象により、局所では酸素不足に)
③病的新生血管の周囲には、異常な神経が伸びてきて痛み信号を発する

この血管が増えている場所まで細い管(カテーテル)を進めて、薬を投与することで病的な血管を間引いてきます。そうすることで、以下の現象により痛みの改善につながると考えられています。
❶痛み物質が血管から漏れなくなる
❷病的新生血管が作っていた異常な交通が無くなるため、結果的に正常な血管からの盗み取り減少が改善。正常な血管による血行が改善する
❸病的新生血管周囲に増生していた神経の興奮が鎮まり、さらには減少していく。

運動器カテーテル治療を受けてどれくらいで痛みがよくなりますか?

痛み止めを投与するわけではなく、前述のようなしくみで改善していきますので、すぐに改善する症状もありますが、治療後に身体の中で様々な変化を経て治っていきますので、効果がしっかり出てくるのは1か月を過ぎたころです。痛み物質が漏れていたことによる症状は(夜間痛などがそれに相当すると考えられます)病的新生血管が消えることで早期の改善が期待できますが、血行改善による組織の再構築・修復や、異常な神経の減少は一定の時間経過が必要というわけです。

運動器カテーテル治療を受けて四六時中ジンジンと疼いていたような痛みはよくなりましたが、時々ピキッと走るような痛みはまだ残っています。

痛みはその種類により、神経の通り道が異なりますが、前者(ジンジン、ズーン)はC線維、後者(ピキッ;電気が走るような早い刺激)はA-δ線維というところを通ります。運動器カテーテル治療後は、まずC線維を介した痛みから先に良くなることを多く経験します。ピキッと走るような痛みも少し遅れてよくなる可能性があります。

運動器カテーテル治療後、痛みが再発することはありますか?

既存のさまざまな注射治療などと比べると、比較にならないくらい強力に痛みを取り除くことが可能であり、根治が見込める痛みもありますが、一方で元々の原因であるような関節の変形などが治るわけではありません。痛み止めを受けた後のようにすぐにぶり返すことはありませんが、特に変形の程度が強い場合などは、再発のリスクがあります。個人差や病気の違いによって大きく異なりますので、主治医によくご相談ください。いずれにしても、それぞれの原因に応じて治療後の再発予防(セルフケア)が重要です。詳しくは専門家にご相談されるとよいでしょう。

カテーテル治療と聞くとこわいです。不安です・・。

あらゆるカテーテル治療の中で、最も細い道具を用います。体の深くに進めて薬を投与するのに用いられるカテーテルはわずか直径0.6mmほどの大きさで、先端もとても柔らかいものです。適切な術者が施行すれば血管を傷つけたりする可能性は極めて低いものです。運動器カテーテル治療の経験豊富な術者のもとで治療を受けるとよいでしょう。

運動器カテーテル治療は痛いですか?

痛みを生じるポイントは大きく分けて3つです。
①最初の皮下麻酔の際の、針の痛み
②血管造影検査および塞栓物質投与時(一時的な血流遮断や、浸透圧ストレスによるもの)
③止血の際の、圧迫による痛み
極細針の使用、薬液の組成や投与法の工夫、穿刺技術や止血技術の向上によりいずれも対処可能です。実際にこの治療の実績が積みあがるにつれ、より楽な状態で治療を受けていただけるようになっています。胃カメラが昔に比べて楽に受けられるようになっているのと同様です。医療は常に進歩しています。痛みの感じ方は個人差がありますので、痛みに弱い方は事前に主治医にしっかり伝えてできるだけの配慮をしてもらいましょう。施設によっては全身麻酔も可能です。眠ったまま治療を受けたいというご希望をお聞きすることがありますが、デメリットもありますので主治医とよくご相談ください。

運動器カテーテル治療にはどんな合併症がありますか?

心臓や脳のカテーテル治療の際は、心筋梗塞や不整脈、脳梗塞の確率が〇〇%ありますなどと説明をされますが、運動器カテーテル治療では、これまで入院を要するような重大合併症を生じた経験はありません(2020年3月時点, 国内専門4施設において)。主に穿刺部合併症が挙げられます。針を刺した場所が内出血を起こして腫れる、後で皮膚が暗紫色~褐色(一時的)を呈する、ばい菌が入って感染してしまうなどといったことは生じえます。いずれも適切な対処や自然経過により3週間以内に改善します。
注意が必要なのは針による神経損傷や、稀に生じるCRPSという複雑な痛みです。滅多に経験することはありませんが、針を用いる以上、どんな細い針を用いても可能性をゼロにすることはできません。血液検査や、点滴治療などでも生じることが報告されています。むしろ、起こった場合に適切に対処してもらえることの方が重要です。信頼できる医師のもとで治療を受けてください。
その他の合併症として重要なのは、アレルギーです。麻酔薬、造影剤、塞栓物質いずれでもアレルギーの可能性はあります。皮膚が赤くなり痒みが出る程度のものから息苦しくなり呼吸状態が悪化する重症状態まで様々ですが、いずれにせよ早く発見して適切に対処すれば問題ありません。医療機関では必ず聴取されますが、薬や食べ物でアレルギーがある方は事前に忘れずに申告してください。合併症は考えだすと気になってしまうものですが、めったに起こりえないことであっても、医師は常に最悪の状況を想定して施術しています。最後は信頼と決断(思い切り)だと思います。
*専門施設;ここでは、年間300症例以上の治療がなされている施設と定義します。
また、針の刺激などによる血管攣縮(血管が一時的に縮こまって細くなってしまうこと)や迷走神経反射(血圧低下)、アレルギー(血圧低下や徐脈)

血管を詰めるというとこわいです。正常な組織には影響ないのですか?

運動器カテーテル治療に用いる塞栓物質は一時塞栓物質です。がん治療でがんを壊死させるために用いられるような永久塞栓物質とは異なります。用いる薬は抗生剤の一種で、イミペネム・シラスタチンという医師であれば誰でも知っているような薬です。血管が詰まり酸素不足に陥った際に最も弱いとされている小腸の血管でも安全であることが確かめられていますし、テニス肘に対する運動器カテーテル治療の論文によると、治療後にMRIによる経時的な組織観察を行っており、塞栓後の悪影響はなく、むしろ修復が一部みられるといったことが報告されています。正常組織に対する改善効果、組織修復促進効果についてはこれから科学的に実証される必要がありますが、少なくとも悪さをすることはないと考えられています。もう少し詳しく知りたい方へ、 病的新生血管は50μm(0.05mm)程度の大きさしかありません。血管撮影では糸状の構造物としてとらえることはできず、造影剤の染まりとして一部が視認できます。一方、正常な血管ははるかに太いです。塞栓物質は10-100μm程度の粒子からなりますから、投与により、要は物理的に閉塞させるわけです。正常な血管はほとんどの部位において素通りしますが、正常な血管も表層の部位などかなり細い箇所もありますので、そういったところには一時的にとどまります。しかしながら、とどまったとしても正常血管は構造が強いので、しばらくすると再開痛します。一方、病的新生血管は構造が弱いので、一定時間とどまっただけでも潰れていってしまうのです。このように、薬の粒子の大きさや、血管の大きさ・脆弱性の違い(構造の違い)を利用して余計な血管だけ間引くということを可能としているのです。

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